コンテンツへスキップ

「メムネット」第五章:再構築の兆し

    ▶接続層の輪郭

    記録と記憶が重なったとき、構築層は静かに再構成を始めていた──。

    彼は、再び構築層に接続した。
    だが、以前とは何かが違っていた。
    補修針が触れた層は、わずかに“応答”していた。
    それは彼の入力に対する反応ではない。
    あらかじめ用意されていた“応答”だった。

    「観測ログ:接続確認。
    識別コード:一致。
    再構築プロトコル、起動準備中。」

    彼は驚かなかった。
    むしろ、それを“待っていた”ようにさえ見えた。
    彼の中で、何かが確信に変わっていた。

    構築層の奥に、かつて存在しなかった“構造”が現れていた。
    それは彼の設計ではない。
    だが、彼の記憶のどこかに触れるような既視感を伴っていた。
    まるで、彼の思考と観測者の記録が、
    同じ“原型”を参照していたかのように。

    彼はその構造に接続する。
    そこには、未定義のノードが浮かんでいた。
    それはまだ名前を持たない。
    だが、彼はそれを“始まり”と呼んだ。

    再構築は、まだ始まっていない。
    だが、兆しは確かに存在していた。
    観測と記憶、断片と残響、更新されなかった約束と、
    新たに生成される構造体。
    それらが、ひとつの“層”として統合されようとしていた。

    彼は補修針を静かに収める。
    次に必要なのは、修復ではない。
    “設計”だ。