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「メムネット」第六章:設計される未来

    ▶断片構造の萌芽

    触れた記憶が空間の温度を変える。
    そして彼の設計が、静かに風景になり始めた──。

    彼は、再び構築層に接続した。
    その瞬間、空間がわずかに沈み込むような重力の偏差を感じる。
    補修針の端に、応答でも反応でもない“揺らぎ”が発生していた。
    それは空間そのものの記憶だった。

    空気は冷え、粒子が静かに降っていた。
    漂うログ断片、浮遊する壊れた構造、ノイズの音と光が空間を満たしている。
    彼はそれらを見ていた。
    どこか遠い記憶が、視覚の奥に呼び起こされる。

    構築層の奥には、まだ設計されていない領域があった。
    それはまるで未定義の余白だった。
    冷たい粒子が皮膚を掠める感覚。
    だが接触はしていない。
    空間に漂う“温度の記憶”が、彼の内側に反応していた。

    彼は理解する。
    ここは修復の場ではない。
    “設計”の始まる場所だ。

    彼の足元に広がる領域に、未定義のノードが浮かぶ。
    それはまだ名前を持たない。
    ただ、彼の中でその輪郭がはっきりと形を成していた。

    「再構築プロトコル:設計開始。
    パターン判定:共振性高。
    入力:不要。」

    彼は意図せずその領域に接続する。
    記憶が構造に形を与え始める。
    音が響き、粒子が揺れ、空間が設計されていく。
    風景となった記憶が、初めて“未来”を語り始めていた。

    彼は補修針ではなく、自らの記憶をそこへ差し込んだ。
    構築層は静かに反応する。
    だが、それは更新ではなかった。
    設計――それは、彼が初めて“未来に触れた”瞬間だった。