スマホの画面を眺めたまま、彼はぼんやり呟く。
「…最近、眠りが浅くてさ」
「スマホのせいじゃない?寝る直前まで触ってると脳が休まらないっていうよ」
「それもあるかも。でも、同僚が『SleepEaseってアプリ使ってる』って言っててさ。UIがシンプルで、無駄がなくて落ち着くって」
「そういうの、逆に信頼できるよね。派手さでごまかさない感じ」
彼はスマホを取り出し、アプリストアで「SleepEase」を検索した。
“眠りながら、心を少しだけお直し。”
「…このキャッチコピー、ちょっと刺さるかも」
その夜、アプリをセットした彼は深く眠りに落ちる。
翌朝、起きる前にはスマホに通知が来ていた。
“記憶ログを更新しました:修復された感情|言えなかったこと”
「…夢に“タグ”がついてたんだよ。俺、自分の記憶をホームページみたいに眺めてて…“未送信のメッセージ”とか“非公開感情”って書いてあった」
彼女はトーストを齧りながら笑った。
「それ、私の感情にもタグつけてくれないかな。“気まずさ”とか、“ちょっと言いすぎた”カテゴリーとか」
「SleepEase、恋人間の微妙なズレまでお直ししてくれるかも」
その晩、彼女もSleepEaseを使ってみることにした。
初期設定を終えると、ふたりのスマホに見慣れないモードが表示される。
《相互同期モード:記憶リンクを許可しますか?》
「これって…お互いの夢が、混ざるってこと?」
「やってみようか。ちょっと怖いけど…」
眠る直前、彼女の画面には一瞬だけ奇妙な通知が映った。
“本日の感情差分を収集中。対象:関係性の未調整領域。”
次の朝、彼女は彼の昔の部屋を夢に見たという。
赤いベッド、ぐしゃぐしゃの壁紙、知らないはずの風景。
「…なんで覚えてるの?」
「SleepEaseが…記憶を繋いだ?」
ふたりの夢は、静かに重なりはじめていた。