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SleepEase|4話:「記憶を上書き保存しますか?」

    彼は夢の中で、彼女と海にいた。
    波の音、砂の感触、彼女の笑い声。
    でも、そんな記憶はない。現実では、海に行ったことなんて一度もなかった。

    目覚めると、スマホにSleepEaseの通知。

    《昨夜の記憶ログに“共有済みイベント”が追加されました》
    《記憶の整合性:安定》

    彼は眉をひそめる。
    “共有済みイベント”?
    それは、彼女の記憶だったのか?

    朝、彼女に訊いてみる。
    「…昨日の夢、海にいたよね?あれって、君の記憶?」

    彼女は少し考えてから答える。
    「うん。高校のとき、元彼と行った海。…でも、夢ではあなたが隣にいた」

    彼はスマホを見つめた。
    SleepEaseの画面には、見慣れない項目が表示されていた。

    《記憶の再構成:完了》
    《上書き保存しますか?》

    彼は指を止めた。
    “上書き”という言葉が、妙に重く感じられた。

    その夜、彼はSleepEaseを起動せずに眠った。
    でも、夢は勝手に始まった。

    彼女と歩いたはずの街。
    見覚えのあるカフェ。
    でも、現実ではそんな場所に行った記憶はない。

    翌朝、彼女が言った。

    「昨日、あのカフェ懐かしかったね。夢で見たのに、なんか本当に行った気がする」

    彼は黙っていた。
    SleepEaseの通知が届く。

    _《記憶の整合率:98%》
    “現実との齟齬は検出されませんでした”

    彼はスマホを伏せた。
    夢が、現実を侵食している。
    それに気づいているのは、彼だけだった。

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