彼女は夢の中で、彼と話していた。
静かな部屋、窓の外は夜。
彼は笑っていた。優しくて、少しだけ悲しそうな顔で。
「…ねえ、これって現実?」
彼は答えなかった。ただ、彼女の手を握った。
目覚めたあと、彼女はスマホを確認した。SleepEaseの通知が届いている。
《夢の記憶統合:完了》
《現実との整合率:100%》
でも、彼はまだ眠っていた。
彼女はそっと声をかける。
「ねえ、起きて。…さっきの夢、覚えてる?」
彼はゆっくり目を開けた。
「…夢?何も見てないよ」
彼女は言葉を失った。
夢の中で、彼は確かにそこにいた。会話もした。手も握った。
その夜、彼女はSleepEaseを起動せずに眠った。
でも、夢は始まった。
彼がいた。昨日と同じ部屋。同じ夜。
でも、彼は彼女を見ていなかった。
窓の外を見つめて、静かに言った。
「…君は、もう現実に戻ったんだね」
彼女は目を覚ました。
スマホには通知が届いていた。
《あなたの夢に、パートナーの記憶が残留しています》
《同期解除まで、あと3回の睡眠が必要です》
彼女は震えながらスマホを伏せた。
夢の中に、彼が取り残されている。
それとも——取り残されているのは、自分のほうなのか。