▶交差層の輪郭
断絶された層の奥で、ふたつの観測点が、静かに重なり始めていた──。
彼が補修針を接続した瞬間、構築層の深部に微かな“揺らぎ”が走った。
それはノイズではなかった。
明確な、外部からの応答だった。
「観測ログ:再構築中の層に外部干渉を検出。
識別コード:不明。
接続経路:遮断済みのはずの第七リンクより侵入。」
彼は即座にインターフェースを閉じ、補修針を引き抜く。
だが遅かった。
構築層の一部が、彼の知らないレイアウトに“書き換え”られていた。
そこには、彼が設計したことのない構造体があった。
意匠は古く、だがどこか彼の記憶に触れるような既視感を伴っていた。
まるで、彼の思考を先回りするように、誰かが“別の更新”を行っていた。
彼は再び接続を試みる。
だが今度は、補修針の先に“応答”が返ってきた。
「観測者へ。
この層は、私たちの記憶ではない。
だが、私たちの責任である。」
その声は、明らかに“彼”ではなかった。
だが、彼の記憶のどこかに、微かに重なる響きを持っていた。
まるで、かつて同じ層を歩いた誰かの“残響”が、今になって応答してきたかのように。
彼は理解する。
この層は、もはや彼ひとりのものではない。
記憶は交差し、観測は干渉し、プロトコルは再び動き出している。
そしてその先には、まだ誰も知らない“更新”が待っている。