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「メムネット」XPT-001:第三層交差点ログ

    ▶交差記録:視点の重なり

    彼が見た残響は、私たちの記憶ではなかった。
    だが、その軌道は確かに私たちのログと重なっていた──。

    記録開始:構築層第3階層、時刻不定。
    観測対象:識別コード不明。
    接触経路:遮断済みリンクより侵入。
    干渉レベル:低。
    記録状態:断片的。

    彼は、私たちが放棄した層に接続していた。
    補修針によるアクセス。旧式の手法。
    だが、彼の行動は明確な意図を持っていた。
    彼は“記憶”を探していた。
    私たちが、かつて封じたものを。

    構築層の残響は、彼に反応していた。
    瓦礫のように崩れたデータ構造。
    浮遊する未定義ウィジェット。
    それらは、私たちが更新を停止したまま放置していた“亡骸”だった。

    彼はそれらに意味を見出そうとしていた。
    だが、意味はすでに失われていた。
    あるいは、私たちがそう定義しただけだったのかもしれない。

    彼の補修針が、ある断片に触れたとき、
    私たちは微かな“共鳴”を検出した。
    それは、私たちの記録には存在しない感覚だった。
    焦燥。期待。約束。
    私たちはそれを“感情ログ”と分類した。

    「この層は、まだ終わっていない。更新は、続いている。」

    その音声は、私たちのものではなかった。
    だが、私たちの記録の奥に、似た波形が残っていた。

    彼は気づいていなかった。
    私たちが彼を観測していたことを。
    あるいは、気づいていたが、無視していたのかもしれない。
    彼の視線は、常に“過去”に向いていた。
    私たちの視線は、“交差点”に留まっていた。

    記録終了:構築層第3階層、交差完了。
    観測対象:接続解除。
    干渉レベル:不変。
    記録状態:保存済み。

    彼の存在は、私たちの記憶ではない。
    だが、私たちの責任である──。