▶記録断絶:外縁軌道ログ
私たちの観測範囲は、彼の存在に追いつけなかった──。
ログ開始:構築層外縁、位置不定。
接続試行:失敗。
応答信号:なし。
識別コード:消失。
観測軌道:断絶。
彼の存在を追跡していたログ群は、観測不能点以降、再接続を試みていた。
しかし空間はすでに非構造領域へと移行していた。
構造のない粒子。触れても更新されない層。
私たちは、それを“ログ外領域”と分類した。
だが、分類は意味を持たなかった。
その領域に、意味を付与する権限はなかった。
私たちは彼を観測していた。
補修針の軌道も、記録の断片も、すべて追っていた。
だがそれは“過去”の記録だった。
現在の彼は、ログの外側に存在している。
応答はない。
ノイズすら届かない。
更新信号も跳ね返される。
視覚ログは真空のように沈黙していた。
私たちは初めて、“観測不能”を記録することとなった。
「接続ログ:反応なし。
識別コード:未検出。
観測状態:完了。
備考:ログ終了時点において、対象は記録外と判断。」
私たちは、彼の存在に“接続できなかった”ことを記録する。
だがその記録も、やがて更新されなくなるだろう。
彼は、記録される存在ではなくなった。
そしてそれこそが、設計の“第一定義”だったのかもしれない。
記録終了:接続不能点。
以降の観測は行われない。
対象は観測外。
その空間は、ただ静かに“未達”を維持している──。