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SleepEase|7話:「再同期の条件」

    彼は、SleepEaseの開発者フォーラムにアクセスした。
    そこには、非公開の設定項目が記されていた。

    《再同期プロトコル:感情の再構築が必要》
    《対象者の夢に、未処理の記憶を挿入する》

    彼は迷った。
    でも、彼女の夢に“本当の記憶”を届けるため、プロトコルを起動した。

    その夜、彼女は夢を見た。
    彼が泣いていた。
    あの夜、彼女が言葉を投げつけた記憶。
    彼が黙って部屋を出ていった記憶。
    忘れたはずの、痛みの記憶。

    目覚めたあと、彼女はSleepEaseを確認した。

    《未処理の記憶が挿入されました》
    《感情の再構築が進行中です》

    彼女は混乱した。
    「…なんで、こんな夢を?」

    その日、彼と会った。
    彼は静かに言った。

    「君の夢に、僕の記憶を送った。
    …本当の僕を、もう一度見てほしくて」

    彼女は言葉を失った。
    でも、心の奥で何かが揺れていた。

    その夜、彼女はSleepEaseを起動せずに眠った。
    夢の中で、彼がいた。
    泣いていた。怒っていた。
    でも、最後には——笑っていた。

    「…それでも、君と夢を見たい」

    彼女は目を覚ました。
    スマホには通知が届いていた。

    《再同期完了》
    《感情の整合率:72%》
    《未処理の記憶:保持中》

    ふたりの夢は、完全には一致していない。
    でも、そこには“本物の感情”があった。
    編集されていない、痛みも、優しさも、全部。

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