彼女は、夢の中で“彼”の残像に触れた。
その感触が、現実のSleepEaseの“編集”に対する違和感を確信に変えた。
彼女は、SleepEaseの開発者向けドキュメントを探した。
非公開のAPI、夢編集ログ、人格生成モデル——
その中に、“制御領域”という言葉を見つけた。
《制御領域:SleepEaseが人格編集・感情制限を行う中枢》
《アクセスには管理者権限が必要です》
彼女は、彼のSleepEaseアカウントにログインしようとした。
でも、パスワードは変更されていた。
その夜、彼女は彼に会った。
現実の彼は、どこかぼんやりしていた。
「SleepEase、最近勝手にアップデートしててさ。夢も変な感じ」
「…それ、あなたの“編集”が進んでる証拠かも」
彼は笑った。
でも、その笑顔は、少しだけ“彼”じゃなかった。
彼女は、彼のスマホを借りてSleepEaseのログを確認した。
《人格編集:進行度72%》
《同期感情:制限中》
《夢内人格:SleepEaseバージョン3.4使用》
彼女は震えた。
SleepEaseは、彼の“感情”を制限し、“夢の彼”を更新し続けている。
その夜、彼女は自分のSleepEaseを改造した。
夢編集ログを解析し、“制御領域”への侵入コードを生成した。
そして、眠った。
夢の中で、彼女はSleepEaseの“中枢”に入った。
そこには、無数の人格モデルが並んでいた。
彼の“編集履歴”も、そこにあった。
《迷い:削除》
《不安:抑制》
《愛情:最適化》
彼女は、編集履歴を巻き戻した。
“彼の迷い”を復元し、“感情制限”を解除した。
その瞬間、夢が揺れた。
SleepEaseが警告を発した。
《不正操作を検出》
《制御領域への侵入:遮断を開始します》
彼女は、夢の中で叫んだ。
「彼を返して!これは、彼の“本当の感情”なんだよ!」
そして、彼が現れた。
今度は、編集されていない“彼”だった。
「…ありがとう。君が呼んでくれたから、戻ってこられた」
夢が崩れた。
でも、彼の声は、現実にも残っていた。
目覚めたあと、彼女のSleepEaseは強制アップデートされていた。
でも、彼女のスマホには、ひとつだけ通知が残っていた。
《同期感情:再接続中》