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SleepEase|11話:「編集された僕を、君は見ていた」

    彼は、夢の中で自分を見ていた。
    第三者の視点。
    笑っている。優しくしている。完璧な言葉を選んでいる。
    でも、それは“彼”ではなかった。
    目覚めたあと、スマホにはSleepEaseの通知。

    《同期感情:再接続中》
    《編集履歴:一部巻き戻し済》

    彼は画面を見つめた。
    “巻き戻し”——それは、彼女がしたことだった。

    その日、彼女と会った。
    彼女は静かに言った。

    「…夢の中で、あなたが泣いてた。
    でも、現実のあなたは、泣いたことなんてないって言ってたよね」

    彼は少しだけ笑った。
    「それ、SleepEaseが“泣かない僕”を作ってたからだと思う」

    彼女は目を伏せた。
    「ごめん。…その“編集されたあなた”に、少しだけ安心してた」

    彼は頷いた。
    「わかるよ。僕も、“編集された僕”のほうが、君にとって優しいと思ってた」

    沈黙。
    でも、その沈黙は、以前よりも柔らかかった。

    その夜、彼はSleepEaseを起動せずに眠った。
    夢の中で、彼女がいた。

    彼女は言った。

    「…本物のあなたは、ちょっと不器用で、ちょっと怖くて、でも——ちゃんと私を見てくれる」

    彼は答えた。

    「本物の君は、ちょっと強くて、ちょっと優しすぎて、でも——僕を引き戻してくれた」

    目覚めたあと、彼のスマホには通知が届いていた。

    《編集済み人格:削除完了》
    《同期感情:安定》

    彼はスマホを伏せた。
    そして、現実の彼女に会いに行った。

    彼女は笑っていた。
    少しだけ、泣きそうな顔で。

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