朝、彼は目を開ける。
窓から差し込む光が、カーテン越しに柔らかく揺れていた。
隣には、彼女がいる。まだ眠っている。
彼はそっと起き上がり、キッチンへ向かい、トーストを焼き、コーヒーを淹れた。
ミルクは、少しだけ少なめに入れる。
彼女が目を覚ます。
「…いい匂い。今日、ミルク少なめでしょ?」
彼は笑った。
「なんでわかったの?」
彼女は肩をすくめて答える。
「なんとなく。最近、わかるようになってきた」
ふたりは食卓についた。
彼女がトーストをかじると、端が少し焦げていた。
「またやっちゃった…」
彼女は苦笑し、彼は焦げた部分をくり抜いて皿に置いた。
「これ、ハート型に見える」
彼女は吹き出して、自然に笑った。
その笑いが、あまりにあたたかくて、彼もつられて微笑む。
ふたりはしばらく見つめ合い、微笑み合った。
「…最近、なんかうまくいってるよね」
彼女が言う。
「うん。なんか、全部噛み合ってる感じ」
「怖いくらいに、ね」
彼は少しだけ黙ってから、言った。
「君の笑い方が好きだから、つい狙っちゃうんだよ」
彼女はまた笑った。
でも今度は、少しだけ涙ぐんでいた。
その日、ふたりは何も特別なことをしなかった。
ただ、静かに過ごした。
部屋の空気は、ずっと心地よかった。
夜、ふたりは手を繋いで眠った。
SleepEaseは、もう起動していなかった。
動いていなかったし、必要もなかった。
でもふたりは、確かにそこにいた。