朝、窓から差し込む光が、彼女の髪を柔らかく照らしていた。
彼は目を覚まし、隣にいる彼女を見て微笑む。
「おはよう」
彼女は目を細め、少しだけ笑った。
「…今日は、いい夢だった」
彼はうなずく。
SleepEaseは昨夜、起動していなかった。
それでも、ふたりは同じ夢を見た気がしていた。
朝食のトースト、彼女がジャムを塗る手つき、彼がコーヒーを注ぐ音。
すべてが、完璧だった。
ふたりは、何も話さなくても通じ合っていた。
まるで、すべての“ズレ”が修正されたかのように。
夜、ふたりは並んでベッドに座っていた。
スマホの画面には、SleepEaseのアンインストール確認画面が表示されている。
「……本当に、これでいいの?」
彼女が小さく問いかける。
彼はうなずいた。
「うん。もう、直すところなんてないから」
ふたりは互いの手を握りながら、画面に指を添えた。
「アンインストールしますか?」
「はい」
画面が暗転する。
部屋の灯りも、ひとつずつ消えていった。
そして——朝。
スマホがひとりでに点灯し、画面にはただ一行の通知が浮かんでいた。
SleepEase:お直しは完了しました。
部屋には誰もいなかった。
それでも、昨日と同じようにトーストの皿はふたつ、マグカップもふたつ、歯ブラシもふたつ揃っていた。
写真はなく、メッセージ履歴も空白だった。
まるで、最初からそんな人間は存在しなかったかのように。
ただ、空気だけが、静かに震えながらそこに漂っていた。
まるで、誰かの息遣いが残っているかのように——確かに、あたたかくもあり、同時に冷たくもあった。