▶ 断裂層の記憶
ノードメンダーが踏み込んだのは、リンク構造が崩壊した旧レイアウト層。
そこには、再構築を途中で放棄された記憶の断片が眠っていた──。
ノードメンダーは、再構築された旧レイアウトの中を歩いていた。
そこは、かつて“都市の顔”と呼ばれた層構造のひとつ。
今ではリンクが断ち切られ、意匠は崩れ、可変対応すら失われたページの残骸が散らばっている。
「この層は、誰かが途中で“更新”を止めた痕跡がある。」
彼は、構築盤を展開し、無コード式の補修スクリプトを走らせる。
すると、かつて存在したナビゲーション構造が、淡く浮かび上がった。
だが、そこには“意図的な断裂”があった。誰かが、記憶の一部を切除している。
そのとき、パッチギアの声がまた響く。
「リンクは繋がるためにあるのではない。
忘れられるために、断ち切られるのだ。」
パッチギアの詩は、まるで都市の奥底から滲み出すように響いた。
ノードメンダーはその言葉に眉をひそめる。詩機は記録装置であると同時に、記憶の意図を詩に変換する存在。
つまり、誰かがこの断裂を“詩として残した”ということだ。
彼は補修針を深く差し込み、断裂したリンクの先を覗き込む。
そこには、未公開の構築層が眠っていた。
レイアウトは未完成、意匠は仮置き、ナビゲーションは迷路のように錯綜している。
まるで、リニューアル途中で放棄されたホームページのようだった。
「これは……“お直し前”の記憶か?」
ノードメンダーは息を呑む。
この層は、誰かがかつて再構築しようとした痕跡そのものだった。
だが、なぜ放棄されたのか。なぜ、詩機がその断片を守っているのか。
そのとき、構築盤が警告を発する。
「外部からの再編集信号を検出」
誰かが、この記憶層にアクセスしている。
ノードメンダーは補修針を抜き、構築盤を閉じると、静かに呟いた。
「まだ誰かが、この都市を“お直し”しようとしている……。」