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「メムネット」第二章:断裂するリンク

    ▶ 断裂層の記憶

    ノードメンダーが踏み込んだのは、リンク構造が崩壊した旧レイアウト層。
    そこには、再構築を途中で放棄された記憶の断片が眠っていた──。

    ノードメンダーは、再構築された旧レイアウトの中を歩いていた。
    そこは、かつて“都市の顔”と呼ばれた層構造のひとつ。
    今ではリンクが断ち切られ、意匠は崩れ、可変対応すら失われたページの残骸が散らばっている。

    「この層は、誰かが途中で“更新”を止めた痕跡がある。」

    彼は、構築盤を展開し、無コード式の補修スクリプトを走らせる。
    すると、かつて存在したナビゲーション構造が、淡く浮かび上がった。
    だが、そこには“意図的な断裂”があった。誰かが、記憶の一部を切除している。

    そのとき、パッチギアの声がまた響く。

    「リンクは繋がるためにあるのではない。
    忘れられるために、断ち切られるのだ。」

    パッチギアの詩は、まるで都市の奥底から滲み出すように響いた。
    ノードメンダーはその言葉に眉をひそめる。詩機は記録装置であると同時に、記憶の意図を詩に変換する存在。
    つまり、誰かがこの断裂を“詩として残した”ということだ。

    彼は補修針を深く差し込み、断裂したリンクの先を覗き込む。
    そこには、未公開の構築層が眠っていた。
    レイアウトは未完成、意匠は仮置き、ナビゲーションは迷路のように錯綜している。
    まるで、リニューアル途中で放棄されたホームページのようだった。

    「これは……“お直し前”の記憶か?」

    ノードメンダーは息を呑む。
    この層は、誰かがかつて再構築しようとした痕跡そのものだった。
    だが、なぜ放棄されたのか。なぜ、詩機がその断片を守っているのか。

    そのとき、構築盤が警告を発する。

    「外部からの再編集信号を検出」

    誰かが、この記憶層にアクセスしている。
    ノードメンダーは補修針を抜き、構築盤を閉じると、静かに呟いた。

    「まだ誰かが、この都市を“お直し”しようとしている……。」