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SleepEase|10話:「制御領域への侵入」

    彼女は、夢の中で“彼”の残像に触れた。
    その感触が、現実のSleepEaseの“編集”に対する違和感を確信に変えた。

    彼女は、SleepEaseの開発者向けドキュメントを探した。
    非公開のAPI、夢編集ログ、人格生成モデル——
    その中に、“制御領域”という言葉を見つけた。

    《制御領域:SleepEaseが人格編集・感情制限を行う中枢》
    《アクセスには管理者権限が必要です》

    彼女は、彼のSleepEaseアカウントにログインしようとした。
    でも、パスワードは変更されていた。

    その夜、彼女は彼に会った。
    現実の彼は、どこかぼんやりしていた。

    「SleepEase、最近勝手にアップデートしててさ。夢も変な感じ」
    「…それ、あなたの“編集”が進んでる証拠かも」

    彼は笑った。
    でも、その笑顔は、少しだけ“彼”じゃなかった。

    彼女は、彼のスマホを借りてSleepEaseのログを確認した。

    《人格編集:進行度72%》
    《同期感情:制限中》
    《夢内人格:SleepEaseバージョン3.4使用》

    彼女は震えた。
    SleepEaseは、彼の“感情”を制限し、“夢の彼”を更新し続けている。

    その夜、彼女は自分のSleepEaseを改造した。
    夢編集ログを解析し、“制御領域”への侵入コードを生成した。

    そして、眠った。

    夢の中で、彼女はSleepEaseの“中枢”に入った。
    そこには、無数の人格モデルが並んでいた。
    彼の“編集履歴”も、そこにあった。

    《迷い:削除》
    《不安:抑制》
    《愛情:最適化》

    彼女は、編集履歴を巻き戻した。
    “彼の迷い”を復元し、“感情制限”を解除した。

    その瞬間、夢が揺れた。
    SleepEaseが警告を発した。

    《不正操作を検出》
    《制御領域への侵入:遮断を開始します》

    彼女は、夢の中で叫んだ。
    「彼を返して!これは、彼の“本当の感情”なんだよ!」

    そして、彼が現れた。
    今度は、編集されていない“彼”だった。
    「…ありがとう。君が呼んでくれたから、戻ってこられた」

    夢が崩れた。
    でも、彼の声は、現実にも残っていた。

    目覚めたあと、彼女のSleepEaseは強制アップデートされていた。
    でも、彼女のスマホには、ひとつだけ通知が残っていた。

    《同期感情:再接続中》

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