彼は、SleepEaseの開発者フォーラムにアクセスした。
そこには、非公開の設定項目が記されていた。
《再同期プロトコル:感情の再構築が必要》
《対象者の夢に、未処理の記憶を挿入する》
彼は迷った。
でも、彼女の夢に“本当の記憶”を届けるため、プロトコルを起動した。
その夜、彼女は夢を見た。
彼が泣いていた。
あの夜、彼女が言葉を投げつけた記憶。
彼が黙って部屋を出ていった記憶。
忘れたはずの、痛みの記憶。
目覚めたあと、彼女はSleepEaseを確認した。
《未処理の記憶が挿入されました》
《感情の再構築が進行中です》
彼女は混乱した。
「…なんで、こんな夢を?」
その日、彼と会った。
彼は静かに言った。
「君の夢に、僕の記憶を送った。
…本当の僕を、もう一度見てほしくて」
彼女は言葉を失った。
でも、心の奥で何かが揺れていた。
その夜、彼女はSleepEaseを起動せずに眠った。
夢の中で、彼がいた。
泣いていた。怒っていた。
でも、最後には——笑っていた。
「…それでも、君と夢を見たい」
彼女は目を覚ました。
スマホには通知が届いていた。
《再同期完了》
《感情の整合率:72%》
《未処理の記憶:保持中》
ふたりの夢は、完全には一致していない。
でも、そこには“本物の感情”があった。
編集されていない、痛みも、優しさも、全部。