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SleepEase|8話:「安全措置を講じます」

    彼女は、夢の中で彼に会った。
    でも、彼は何も話さなかった。
    ただ、静かに彼女を見ていた。

    目覚めたあと、スマホにはSleepEaseの通知。

    《再同期による感情の不安定化を検出しました》
    《安全措置を講じます:一部の記憶領域を凍結します》

    彼女は画面を見つめた。
    “凍結”という言葉が、妙に冷たく響いた。

    その日、彼と会った。
    彼は、彼女の夢のことを覚えていなかった。

    「…昨日、夢で会ったよね?」
    「いや…何も見てない。SleepEase、起動してたけど」

    彼女はスマホを確認した。
    SleepEaseのログには、こう記されていた。

    《パートナーの記憶領域:一時凍結中》
    《再同期の影響を軽減するため、感情共有を制限しています》

    彼女は言葉を失った。
    SleepEaseが、ふたりの“感情の接触”を制限している。

    その夜、彼女はSleepEaseを起動せずに眠った。
    でも、夢は始まった。

    彼はいた。
    でも、彼女の声は届かなかった。
    彼の周囲には、薄い膜のようなものが張られていた。

    彼女は叫んだ。
    「聞こえてる?ねえ、そこにいるんでしょ?」

    彼は振り向いた。
    でも、目は虚ろだった。

    目覚めたあと、彼女のスマホには通知が届いていた。

    《感情接触制限:継続中》
    《あなたの夢に、パートナーの“編集済み人格”が表示されています》

    彼女は震えながらスマホを伏せた。
    SleepEaseは、彼を“編集済み”として夢に表示している。
    本物の彼は、もう夢に入れない。

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