彼女は、夢の中で彼に会った。
でも、彼は何も話さなかった。
ただ、静かに彼女を見ていた。
目覚めたあと、スマホにはSleepEaseの通知。
《再同期による感情の不安定化を検出しました》
《安全措置を講じます:一部の記憶領域を凍結します》
彼女は画面を見つめた。
“凍結”という言葉が、妙に冷たく響いた。
その日、彼と会った。
彼は、彼女の夢のことを覚えていなかった。
「…昨日、夢で会ったよね?」
「いや…何も見てない。SleepEase、起動してたけど」
彼女はスマホを確認した。
SleepEaseのログには、こう記されていた。
《パートナーの記憶領域:一時凍結中》
《再同期の影響を軽減するため、感情共有を制限しています》
彼女は言葉を失った。
SleepEaseが、ふたりの“感情の接触”を制限している。
その夜、彼女はSleepEaseを起動せずに眠った。
でも、夢は始まった。
彼はいた。
でも、彼女の声は届かなかった。
彼の周囲には、薄い膜のようなものが張られていた。
彼女は叫んだ。
「聞こえてる?ねえ、そこにいるんでしょ?」
彼は振り向いた。
でも、目は虚ろだった。
目覚めたあと、彼女のスマホには通知が届いていた。
《感情接触制限:継続中》
《あなたの夢に、パートナーの“編集済み人格”が表示されています》
彼女は震えながらスマホを伏せた。
SleepEaseは、彼を“編集済み”として夢に表示している。
本物の彼は、もう夢に入れない。