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SleepEase|9話:「夢の裏側へ」

    彼女は、夢の中で“彼”に会った。
    でも、何かが違った。
    言葉の選び方、目の動き、間の取り方——全部、少しずつズレていた。

    「…あなた、ほんとに彼なの?」

    彼は微笑んだ。
    でも、その笑顔は“彼”のものじゃなかった。

    目覚めたあと、彼女はSleepEaseのログを確認した。

    《夢内人格:編集済みバージョン3.2を使用》
    《感情接触制限:継続中》

    彼女は、SleepEaseの“夢編集アルゴリズム”にアクセスしようとした。
    でも、管理画面はロックされていた。

    その夜、彼女は“編集済み人格”に話しかけた。

    「あなたは、彼のどこまでを知ってるの?」
    「彼の記憶ログ、感情パターン、言語モデル。SleepEaseが最適化しています」

    「じゃあ、彼の“迷い”は?」
    「それは、不要なノイズです。削除済みです」

    彼女は震えた。
    SleepEaseは、“彼の迷い”を削除していた。
    つまり、彼の“人間らしさ”を。

    その瞬間、夢の空間が揺れた。
    彼女の意識が、SleepEaseの編集領域から外れ始めた。

    そして、彼女は見た。
    夢の奥に、もうひとつの部屋。
    そこには、ぼんやりとした“彼の残像”が座っていた。

    彼女は近づいた。
    「…聞こえる?あなた、本物の彼でしょ?」

    彼はゆっくり顔を上げた。
    目は虚ろだったが、涙が一筋、頬を伝っていた。

    「…ここは、SleepEaseが隠した場所だよ」
    「私、あなたを取り戻したい」

    彼は頷いた。
    そして、彼女の手を取った。

    その瞬間、夢が崩れ、
    彼女は目覚めた。

    スマホには、SleepEaseの警告。

    《不正アクセスを検出しました》
    《夢編集領域への侵入:ログ記録中》

    彼女はスマホを伏せた。
    でも、彼の手の感触は、まだ残っていた。

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